数秘術
数秘術の歴史
数秘術はいったいどのようにしてはじまったのでしょうか。
今日の数秘術師によれば、数秘術は非常に長い歴史を持つアートであり、その創始者は古代ギリシャの哲学者ピュタゴラスにまで遡るといったことがしばしば主張されています。
確かに、現代の数秘術のなかの数に対する根本的な発想のいくつかは、古い時代のピュタゴラス主義者たちにも見られるものです。
たとえば、文字と数価の対応というアイデアは、古代ギリシャの頃には「アイソプセフィー
(isopsephy)」と呼ばれ、一般的に知られていたものでした。
また、「数には特別な意味がある」という発想もピュタゴラス主義者たちからはじまり、後に中世のユダヤ教のカバラと呼ばれる聖書解読のテクニックとしても用いられ、長い歴史を持つものです。
とはいえ、現代の数秘術の創始者を、古代ギリシャのピュタゴラスへと帰するのは、厳密な意味では正しくありません。というのも、今日の一般的な数秘術師たちが用いている数の意味やその操作などの実際の細かなテクニカルな部分は、ピュタゴラス主義者の数の形而上学と実際に比較してみると、そこにほとんど共通するところはありません。
実際のところ現代の数秘術は、20世紀初頭のアメリカ合衆国で活躍したミセス・L・ダウ・バリエッタ(Mrs. L Dow Balliett)という名のひとりの女性の一連の著作に端を発します。したがって、今日の数秘術理論やその広く実践されているテクニックは、一般に思われているほど古い歴史を持つわけではなく、明らかに20世紀に入ってから発展し大きく広まっていったものなのです。
以上のことから、現代の数秘術師たちがおこなっている数秘術のことを、より古い時代の数の形而上学と区別する意味で、英語圏では「モダン・ヌメロロジー(Modern Numerology)」と呼ぶこともあります(以下、それにならい現代実践されている数秘術のことをモダン・ヌメロロジーと呼びます)。
モダン・ヌメロロジーの開祖であるミセス・バリエッタには、ジュリア・セトン(julia seton, 1862-1950)という友人であり協力者がいました。セトンは、「ニューソート(New Thought)」という当時広まりはじめていたメタフィジカル・ムーヴメントの一員として活躍し、数多くの形而上的な内容の著作を残しています。また、セトンは、『あなたのオーラとあなたの主音(Your Aura and Your Keynote)』や『西洋のシンボロジー(Western Symbology: How To Get What You Want, When You Want It, Where You Want It, In The Way You Want It Through NumerologySymbols of Numerology)』といったモダン・ヌメロロジーに関する著書も出版し、アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ハワイなどあちらこちらでレクチャーをおこなっています。
ところでニューソートと言うのは、「精神(思考)のあり方によって現実は変わる」という基本的な信条を持っています。すなわち、後にプロスペリティ・コンシャスネス、マインド・キュア、あるいはポジティヴ・シンキングなどと呼ばれるようになる一連の思想の源流に位置します。バリエッタを創始者とするモダン・ヌメロロジーの初期の支持者たちの多くは、こうしたニューソートの信奉者たちだったようです。
実際、初期のモダン・ヌメロロジーの思想も、多分にニューソート的な色彩の濃いものでした。ですから、そこから導き出されるメッセージも、人を脅すようなネガティヴなものではなく、あくまで人を前向きにさせるようなポジティヴなものでした。そういった基本的な特徴は、今日のモダン・ヌメロロジーのメッセージにまで引き継がれているといってよいでしょう。
さらにモダン・ヌメロロジーのより細かなテクニックを生み出し、その理論をより洗練させたのは、前述のセトンの娘、ジュノー・ジョーダン(Juno Jordan, 1884-1984)です。彼女は14歳の頃から、ミセス・バリエッタ本人からヌメロロジーの指導を受けた、いわば直伝の弟子にあたります。
また彼女は、ミセス・バリエッタとともに数を研究するための機関「カリフォルニア・ヌーメリカル・リサーチ協会(California Institute of Numerical Research)」を設立しています。
1957年、ジョーダンは、協会の研究成果をもとに、最初の本『あなたの数と宿命(Your Number and Destiny)』を、さらに1965年には、今日でもなおモダン・ヌメロロジーのベスト・リソースの1冊として知られる『ヌメロロジー あなたの名前のなかのロマンス(Numerology : The Romance in Your Name)』を出版します。ジョーダンは、ミセス・バリエッタの基本的な理論を引き継ぐとともに、さらにそれをより日常の具体的な事柄を分析するためのメソッドへと発展させていきました。今日の日本で知られているピュタゴラスやカバラにルーツがあると主張されがちな「数秘術」のテクニックのほとんどは、もともとジョーダンの著書によって広まっていったものです。
今から100年程前、「バリエット・システム・オブ・ナンバー・ヴァイブレーション(The Balliett System Of Number Vibration)」と呼ばれたミセス・バリエッタの数の理論は、ジュリア・セトン、ジュノー・ジョーダン、及びカリフォルニア・ヌーメリカル・リサーチ協会から続いて、今に至る数多くのヌメロロジストたちの間へと、ひとつの伝統として継承され続けています。
以上、数秘術の歴史を簡単に紹介しました。より詳しく知りたい方は、拙著『数秘術の世界』(駒草出版)をどうぞご覧ください。